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幌尻山荘のトイレ問題

このところ相次いで幌尻岳で山の事故が起きているようです。
「今年は残雪の融雪が遅れ、天候不順もあり、額平川の水かさが増している」と幌尻山荘の排泄物運搬作業を行っている「日高山脈ファンクラブ」の方からの情報がありました。
幌尻山荘のトイレが機能せず、毎年夏に3回ほど、排泄物を運搬して下山する活動が行われています。
今年は7月に1回目が行われ、2回目は8月に実施されるそうです。

登山ブームのなか、北海道の山のトイレ問題が深刻化しています。
百名山のなかでも人気の高い、日高山脈の最高峰・幌尻岳もそのひとつです。
日高山脈は、国内最大面積の国定公園に指定され、世界自然遺産指定に向けた国内候補地に選ばれています。80年代はお盆でも数名だったという登山者が、90年代から急増。しかし、中腹にある幌尻山荘のトイレ設備は時代に追いついていません。
山荘のトイレは地下浸透式で処理していましたが、大学の研究で排泄物による土壌汚染が判明。
2005年からボランティアの手による排泄物の人力運搬がはじまりました。
行政もトイレ対策に乗り出し、バイオトイレの設置して2007年に使用が開始されましたが、すぐに機能が停止し、水力発電機も故障。結局、年数回の人力運搬がつづけられています。
運搬した排泄物量は5年間で3トン以上になるだろうとのこと。一般市民、地元山岳会、行政職員などボランティアの参加者は、延べ200人を越えます。

2009年8月16日、「幌尻山荘排泄物人力運搬登山」(日高山脈ファンクラブ主催)に同行しました。
取水ダムから山荘までの高低差は約200メートル、距離は3キロほどですが、15回以上の渡渉を繰り返さなければならず、この山の難易度は高レベル。
登山初心者には「無謀」な挑戦であり、しかもトムラウシの事故直後だったのですが、主催者はじめみなさんの多大なご協力のもと、なんとか行って帰ってきました。

ちょっと古いのですが、そのときのレポートです。

登山口から取水ダムまではマイクロバス。細いクネクネ山道のため、途中で車酔いしてしまった。
参加者は、男性8名と女性4名の計12名。朝8時過ぎ、幌尻岳入口の取水ダムで、一斗缶をザックに収納し、四リットル缶を背負子にくくりつけ、身支度を整える。缶はすべて空。幌尻山荘のトイレに溜まった排泄物を運び下すのに使う。
快晴ではないものの、まずまずの天気。それでも、日高山脈を源流とする額平川の水は冷たかった。深さはないが、意外と流れが速く、油断すると足をとられそうになる。
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2時間ほどで山荘に到着し、さっそくトイレの貯留タンクの汲み取りをはじめた。強烈な臭いに圧倒される。緑豊かな大自然を背景に、トイレの周辺だけは清涼感がかき消された。
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淡々と作業を進め、缶に排泄物を詰めていく。野外の仮設トイレ2基分のタンクはほぼ空になったが、山荘内のトイレ分は残したままだ。
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正午過ぎ、再び缶を背負い、山荘を後にした。一斗缶の重さは5キロ以上。4リットル缶2缶(中身だけで25.5キログラム)を担いで下山した70歳の男性もいた。
復路も同じルートで、沢渡りが10数回。バランスを崩したらとんでもないことになってしまう。おのずと無口になる。他の人たちも、さすがに疲れた様子を隠せない。
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運び下した排泄物は、一斗缶14缶、4リットル缶8缶、小便用のポリタンク1個分で、合計219キログラム。
ボランティア12人に加え、首都圏からの女性登山者2人と男性山岳ガイド2人が協力してくれた。
平取町の公園に移動し、缶の蓋を開けて、中身を公衆トイレのマンホールに流す。これもまた息の詰まる作業だ。
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すべてを終えたのは、夕方四時ごろだった。

山のトイレ設置の障害のひとつは、土地の管轄機関の複雑さ。
日高山脈は国定公園であり、その所轄は北海道だが、土地所有者は林野庁(日高北部森林管理署)だ。山荘の所有は平取町で、実質的な管理は平取町山岳会の会員が担っている。
それぞれのトイレに対する見解は一様ではない。
地元山岳会にとってトイレ問題は現実的だ。バイオトイレ設置の際、不足分を出資する覚悟で、2基を要望したが受け入れられず、独自に貯留式の仮設トイレを設けた。現在使用可能な3基のうちの2基がこの仮設トイレだ。山岳会は人力運搬にも積極的に協力している。
平取町役場はトイレ問題を深刻に受け止めてはいるが、財政難で対処できない。土壌汚染が判明した当時、まずは貯留式トイレを設置し、5年後をめどにバイオトイレに移行する心積もりだったようだ。しかし、トイレ設置の決定を受け、計画は頓挫したそうだ。
土地を所有する日高北部森林管理署(林野庁)は、「バイオトイレに1000万円をかけた」ため、これ以上の予算捻出は厳しいという。
林野庁は、2002年に施行した現在の森林計画制度で、森林を3つの公益的機能に区分した。そのひとつ「森林と人の共生林」では、森林整備に力を入れている。「レクリエーションの森」指定地区のバイオトイレは増加しているそうだが、幌尻岳は指定外である。
国定公園を管轄する北海道は、山岳環境の改善を目指してはいるものの、財政赤字を理由に、幌尻岳には関与したがらない傾向にあるという。
環境省は、トイレ整備の半額を補助する「山岳環境等浄化・安全対策事業費補助制度」(山岳トイレ整備補助制度)を1999年に設定したが、対象となるのは民間事業者を中心とする山小屋、および自治体が所轄する公衆トイレのみ。しかも、事業費1000万円以上の下限側制限があり、半額の500万円以上は自己負担しなければならない。幌尻山荘を含む北海道の多くの山小屋は、国有林の林業事業者用施設として建てられた「非難小屋」で、ほとんどが適応外だ。

幌尻山荘のトイレ問題は、バイオトイレ設置で決着するはずだった。しかし、初期段階での見通しの甘さが、徒になったといえる。
トイレの運搬にはヘリコプターを使用せざるをえず、林野庁は1基のみの設置を希望。「利用人数から算出して3基必要」という業者の見積りや、山荘管理人など現場の人々の声は、「予算不足」の壁に阻まれ、反映されなかったそうだ。
最終的に、林野庁がバイオトイレL型1基(大便用1・小便用1)の費用を負担。電源は山荘の横を流れる川を利用し、そのための水力発電機を平取町が備えることになった。
工程でも不手際があり、2005年10月にバイオトイレの工事は終了したが、使用開始までには、2年後の水力発電システムの完成を待たなければならなかった。
喜んだのも束の間、2ヶ月後には分解力低下で改修工事が必要になった。50~90人がいっせいにトイレを利用するため、許容範囲を超えてしまったのが原因らしい。メンテナンス体制も不十分で、翌年もバイオトイレはうまく稼動せず、さらに水力発電機も故障。その年の夏山シーズン中、トイレが稼動したのは3分の1の期間だけだった。

北海道の夏山シーズンは7月~9月で、50人定員の幌尻山荘はシーズン中ほぼ予約で埋まる。テント宿泊者のなかには、山荘のトイレや水を無料で利用する人も相当数いる。
幌尻岳登山のツアー企画は多く、登山者の大半は道外からの旅行者だ。そのため、「山岳環境改善のための費用を旅行会社が負担するのは当然の責務」との意見も出ている。
山荘の利用料は1500円で、道外に比べて格安だ。山荘の料金値上げし、トイレ使用料を利用者に負担してもらう方法も検討されている。しかしその場合、「どこがどのように徴収するのか?」といった問題が浮上する。
「林野庁が入林目的で利用料を徴収するとなると、全国規模で実施しなければならない。北海道が徴収には、土地使用料を国(林野庁)に支払う義務が生じるかもしれない。平取町役場が平取町山岳会を指定管理者に指名し、平取町山岳会が利用料を徴収する方法が最も現実的」とある専門家は述べる。
ヘリコプターでの荷揚げには、1回200万~300万円かかり、ここでも、費用の捻出先が争点となる。
今後のトイレ対策を話し合うために、昨年、行政と市民による4者協議会(平取町役場、日高北部森林管理署、平取町山岳会、日高山脈ファンクラブ)が発足した。しかし、いまだ良策は見出されていない。

他人の排泄物処理のための登山は楽しいとはいえない。
国は、美しい森林づくり、環境保全、健康増進とメタボ対策、観光立国推進、地域活性を掲げている。
登山人口の増加は歓迎すべき現象でもあり、関連ビジネスは潤う。
「山のトイレ」の改善は、地元の登山愛好家だけに課せられた責務なのだろうか。
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by k_nikoniko | 2011-07-23 13:48 | 社会問題
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